さて、寺畑さんはこのラファ事務所の駐在でもあり、要するにその代表である。だから、ガッサン、ガーダ、アブデル・ハーディの上司であるのだ。
これがなかなか厳しい上司であるから大したものである。
ガッサンは、よく遅れてきていた。その都度、非常に厳しく、けれど傷つかないようにたしなめたら、3日目からは5分も早くくるようになった。小さなことのようで、こういった事をちゃんと押さえていくことは、外国人駐在に求められている「資質」である。
あるとき、ガッサンが桑山の講義の途中、なにか別のものを書いている様子だった。
寺畑さんは、ガッサンを手招きで外に出して、たしなめた。
「みんなの前で注意しすぎると、彼にもプライドもあるだろうから…」との判断であった。
プライドの高いパレスチナの人々をよく理解していると思う対応だった。
こうして、近隣から寝ていてもおきていても扉の前で「ユミ!ユミ!」と名前を呼ばれつづけている日本人寺畑由美であるが、アラビア語も非常に上達して、冗談で相手を笑わせるほどになっていた。
もともと17歳までニューヨークで育った帰国子女であり、英語が母国語なのであるが、第3の言語がアラビア語になると、誰が想像しただろうか・・・。しかし非常に楽しそうにしゃべっているのだから、上達もするというものだろう。
そんな寺畑さんの長年の夢、それは、ロバを買って荷車をつけ、それで家庭訪問することだという。
それを聞いたアブデル・ハーディが、
「どこにFrontlineのロゴをつけるって?荷馬車?やっぱりそりゃあロバの腹だョねえ」
といって嘆いていた。
それでもやっぱり寺畑さんは「ロバがほしい」のである。
ちなみに荷台つきで約600ドルくらいだという・・・
高いんだか安いんだか…
桑山紀彦
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